空翔る翼 -Sora×Tsubasa-

INDEX

Lover's High!!!

目の前に広がる屍の数々。
耳に伝わるのは苦悶の響きのみ。
そして・・・何よりも感覚器官を通して頭の奥に直接響く・・・アルコール臭・・・
遥か遠くに見える限りない夜空と地上の悲惨さとを見比べて、重いため息が二つ重なる。
ため息の一つは赤い外套に身を包んだ騎士。
もう一つのため息は赤い騎士とは対照的に青い陣羽織に身を包んだ武士。
互いに目が合い、ほんの僅かの間の後、お互いの身を哀れむような何ともいえない視線が絡み合った。
どうやら今宵の宴の一番の被害者はこの二人のようだ・・・





そもそも何故このような事態が起こったのか?
時を遡ること一ヶ月・・・
春の風は緩やかに去っていき、夏の風が冬木市に吹き始めたある日・・・
衛宮家に一通の封筒が届いた。
達筆な字によって書かれた宛名は衛宮家に住んでいる住人全員であった。
だが送り主の名が書かれていない。
いや、それどころかよくよく見てみると、住所や郵便番号すら書かれていない。

「なんだこれ・・・?」

衛宮家の主人こと衛宮士郎は手紙を日の光にかざしながら不思議そうに首をかしげた。
封筒そのものは大した厚さもなくいたって普通なのだが隠し切れない怪しさが手紙から流れ出ていた。
凛とした可憐な容姿に似合わず容赦なく負け知らずの剣を振りかざしてくる居候に、
大輪の花を思わせる容姿に似合わず言葉による暴力を得意とする同級生に、
名前の通り桜のように見目麗しく、性格も流れる小川のように穏やかなのだが、その内面に人の奥深き闇を潜ませる後輩によって
鍛えに鍛え抜かれた直感が、これをあけてはいけないと遺伝子レベルで告げている。

「・・・剣も鍛えすぎるとあっけなく折れちゃうってことを知ってほしいな・・・」
生存本能が告げるかのごとく言葉を自然と紡ぐ少年であった。

「でも開けないわけにもいかないしな・・・」

もっともである。
しかし、理性が開けようとしても、本能がそれを許さないのである。

「どうするかな・・・」

途方にくれる少年。
衛宮家の玄関前では人生の岐路に立たされたかのごとく、思い悩む少年が一人で青春をしていた・・・
しかし、彼を救うかのごとく、一人の、いや一匹の悪魔が手紙を受け取る、もといひったくった。

「玄関前でなにやってんのよあんたは・・・」

少々あきれながら衛宮家の「あかいあくま」こと遠坂凛は封筒をためらいなく開けた。

「いや、なんとなく嫌な予感がしたから開けようか悩んでただけだぞ?」
「いちいちそんなことで玄関前で人生ドラマ見せないでくれる?」

そういいながら中身を拝見するために、とばかりに彼の師匠(それはもういろんな意味で)は家の中に上がりこんでいく。
あかいあくまはものの見事に士郎の悩みの種を叩き潰してくれたのだった。

「ためらいとかそういうのがあいつにはないのか・・・?」

そんな師匠に少々呆れながら彼もそれに続くのであった。





少々遅れて居間に入ると、ものの見事に固まっている彼の師匠。
紙を持ったまま彫像のように見入っている。

「と、遠坂・・・?一体何が書いてあったんだ?」

師匠のただならぬ様子に恐れに近いものを感じながら、彼は手紙を遠坂から抜き取って目を通した。

「拝啓
春風が遠のき夏風が道を行き交うことも多くなった今日この頃。
いかがお過ごしでしょうか?
先日めでたく入籍いたしました私たちではありますが、一身上の理由で挙式をしておりませんでした。
ですが今回アインツベルン家のイリヤスフィール嬢の協力により式を挙げることになりました。
もし、よろしければ絶対に、式においでください。
あなた方の参加を心よりお待ちしています。

葛木 宗一郎
   メディア」

「「・・・」」

そろって固まる二人。

「・・・とりあえず、日本語がおかしいと思うんだけど・・・気のせいか?」
「衛宮君もそう思ったんでしょ?なら私たちの考えている通りでしょうね・・・」
「体面上出欠席を聞いてきているが、要は絶対出席ってことだな・・・」
「でしょうね・・・」

悲しげに瞳を伏せる少年少女であった。





夕食後、戦地に赴く兵士たちのごとく悲壮な決意を瞳に宿しながら、
衛宮家の当主、および衛宮家に住み着くあかいあくまは住人たちに手紙の内容を話した。
それはそれは大層に。

結果、

「それは良いことですね。是非参加しましょう!」
「わぁ・・・素敵ですね〜!」
「結婚式ですか・・・興味深いですね・・・」

三者三様にあっさりと了承。
人を疑うことを知らずに育てられたのかおまえらは・・・?とでも言いたげに三人の言葉に視線で聞く遠坂。

「? 凛、どうしたのですか?視線でものを問うなど貴方らしくないですよ?」

その言葉に対してマスターと似て鈍いわね・・・とでも言いたげに士郎を一瞥した後、重い口を彼女は開けた。

「セイバー、貴方ね・・・キャスターよ?専門は魔術よ?自分の利益のためなら何でもするのよ?しかも料理下手よ? というよりも家事全般が下手なのよ?耳はどう見てもエルフとかそんな感じよ?それでも貴方は私たちに行けって言うの?!」

一気にまくし立てる彼女に弟子が適切なフォローを・・・

「そうだぞ。キャスターの飯は料理人としては見過ごせないほど酷いんだ! そんなキャスターを嫁に行かせるなんておれは納得できないぞ?!」

するわけもなかった。
「そうよ!!そう・・・アンタは何を勘違いしてるのよ!?」
「え、違うのか?」
「当たり前でしょうが!!! あんたはいつからキャスターの父親になったの?! まぁいいわ――― 要するにね、キャスターのことだから、料理とかに絶対になにか仕掛けてあるのと 思うのよ。だから正直、私はあまり行きたくないわ。」

こればかりは譲れないとばかりに物申すあかいあくま。
それに対して

「遠坂・・・それはキャスターに対して失礼だぞ・・・」
「姉さん、キャスターさんはそんなことする人じゃありませんよ!」
「凛・・・無用に人を疑うなどあなたらしくもない・・・どうしたのですか?」
「セイバーの言うとおりです。・・・なにかキャスターにされたのですか?」

冷たい視線を禁じえない四人。

「皆なんでそんな目で私のことを見るのよ?!だってキャスターは神代の魔女よ? 同じ魔術師としてこれぐらいの警戒は当然なのよ!!」

場の雰囲気に耐え切れなくなったのか、がぁーっと一気にまくし立てる彼女に対する 衛宮家の住人の対応は、

「「「「・・・」」」」

当然冷たかった

「・・・わかったわよ。行けばいいんでしょ、行けば!!!」

一様に明るくなる衛宮家の住人達。
(どんなことになっても知らないんだからね・・・)
不吉な予感を胸に、結局は住人達と団欒する遠坂さんであった。





で、あれよあれよと言う間に結婚式当日。
集まりだした参加者。
どうやら衛宮家の住人達が一番乗りのようである。
城内部に入ると、

「私のお城へようこそ。今日はキャスターの結婚式を祝福、もとい楽しんで言ってね!」

式用の服であろう白いドレスを着飾りながら朗らかに挨拶をする冬の妖精ことイリヤ嬢が待ち受けていた。

「お?イリヤか。見違えたな。そのドレスすごく似合うぞ。」
「えへへ♪シロウにそういってもらえるとわざわざオーダーメイドで頼んだ甲斐があったわ。」

仲睦まじく会話する二人。

「士郎。そんなことより着替えなくちゃいけないんだから早く行くわよ!」

少々棘のある言葉を士郎に投げつける遠坂嬢。

「そうですよ先輩!式までまだ時間があるからってデレデレしてちゃだめです!!」

姉に追随するがごとく語調の厳しい桜嬢。

「わ、わかってるって。で、イリヤ。俺たちはどこで着替えれば良いんだ?」
「全く・・・私がシロウに少し誉められたからって嫉妬するなんて、技量がないというかなんというか なんというか・・・」

ため息をつきながら先導するイリヤ嬢。

「「別に嫉妬してるわけじゃ」」「ないわよ!!!」  
               「ありません!!!」 

などとぎゃーぎゃー言っている姉妹を置いてとっととそれについていく士郎たち。

「ところで、イリヤ。おれや遠坂とか桜は式用の服をもってるけどライダーとかセイバーは 持ってないんだけど・・・そのままの服で出るってのはやっぱりまずいかな・・・?」

後ろでいまだに騒いでいる遠坂姉妹を軽やかに無視して、すまなげに質問する士郎。

「え?士郎・・・何を言っているの?」
「そうだよな、すまん・・・」
「皆の服はキャスターが見繕ってくれてるわよ?準備する必要はないって送った手紙に書いてなかった?」
「え?そうなのか?」

持ってきた招待状をみてみると下のほうに小さくだが確かにそう書いてあった。

「上のほうの文章のショックがでかすぎて読んでなかった・・・」
「まぁなぜショックが大きかったかは不問にするとして、そういうことだから安心してね。」

そういった会話をしているうちに目指す部屋についたらしい。イリヤの足が止まる。

「じゃあ後は中に入ればいいから。」

と言い残して女性陣を隣の部屋に案内していくイリヤ嬢。

「気のせいかもしれないけどイリヤの笑い方・・・」

藤ねえと悪巧みするときによく見笑みだったなぁ、と少しばかり嫌な予感に駆られながら入ろうとする
と、

「おお、これに見えるは衛宮ではないか。」
「おっ、衛宮じゃん!」

穂群原高校の生徒会長こと柳桐一成と弓道部元副部長である真桐慎二という珍しいコンビが 後ろからメイドのセラに案内されて来ていた。

「おぉ。珍しいところで会ったな。式に参加するのか?」
「身内の冠婚葬祭に参加するのは人として当然のことだぞ、衛宮。」
「あ、そっか葛木先生のほうか。」

納得とばかりにうなずく士郎。

「で、一成はわかるとしてなんで慎二まで来てるんだ?」
「なんでって呼ばれたから来たんだよ。ボクが用もなくこんな奥地まで足を運ぶとでも思ってるのかい? そんな無駄なことをするぐらいだったらボクは新都でガールハントでもして愉快に過ごすに決まっているだろう?」
「いや、それはわかるけど・・・手紙きたのか?」
「ああ。きたぞ。家のリビングに置きっぱなしだったのが置いてあった。 桜宛だったけど、兄としてボクが行かないって言うのもおかしいだろう?だからわざわざ時間を 割いてきてやったってワケさ。」

それは送られたとは言わないと思う・・・と心の中で親友に突っ込む士郎であった。

 「真桐、それは送られてきたとはいえんぞ・・・ 」

それに対して的確に突っ込む生徒会長であった。

「まぁいいや。じゃあ早く着替えよう。」

と言いながら扉を開ける。
と、

「士郎君ですか。これは腕が鳴りますね。」

夏が近づいてきているというのにスーツをきちっと着込んだ見目麗しき女性、 バゼット・フラガ・マクレミッツが両手を鳴らしながら雄雄しく立っていた。

「・・・部屋間違えるなよ。あっちだよあっち。」

不意を突かれて少なからず驚く士郎だったがそれでもすぐに落ち着きを取り戻し適切な 助言をバゼットにあたえたが、

「いえ、間違えてなどいません。イリヤスフィールに雇われて着付け係として 今日はここで働いています。」

と衝撃の大問題発言。

「な、何を言ってるんだ?!!俺たちは男だぞ?!」 「「衛、衛宮の言うとおりです!バゼットさんとやら。服の着付け程度私たちは自分で出来ます!!」
「え、やってくれるの?!わざわざこんなとこまで来た甲斐があったよ!!!やったね!」

若干一名をのこして大慌ての男性陣。
しかしバゼットはその疑問に対しての具体的な回答をくれた。

「言い方を間違えましたね・・・正確に言えば着付けを手伝うのではなく強制的に着させるために雇わ れました。」
「あ、なるほどね。なら納得だよ。なぁ一成?」
「うむ。全くだ。一時はどうなることかと思ったぞ?」
「「・・・え?」」

納得して会話に華を咲かせていた二人だがバゼットの日本語が少々おかしいことに 遅れて気づいた。

「いやぁこんな美しい人に着付けさせるなんてボクは幸せ者だあぁぁぁ???!」

そして彼らが気づいたその瞬間に赤い布が自らの世界に浸っていた三人のうちの一人を見事に覆った。

「「へ・・・?」」

現状を理解する前にさらに襲い来る赤い布。

「ちょっ、うわっ!?」
「な、なにごと、だぁぁ??!」

赤い布は更に貪欲にも残る二人を見事に多い尽くしたのであった。

「このっ・・・一体なんのつもりだよ?!」

赤い布から逃れようと悪戦苦闘する士郎の前に神々しいまでのオーラを放ちながらも、 口元に隠しきれていない悪魔の笑みがこぼれているシスターが現れたのだった。

「つまり貴方たちが嫌がりそうな服を着させるということです。」
「まぁ要はカレンの言ったとおりです。」

と、何ともいえない笑みを浮かべながら赤い布に包まれた哀れな子羊たちに近づいていく 悪魔と狼。

「ひ、ひぃぃぃ?!!命だけはご勘弁をっ!!いやボクなんかよりもこっちの二人の方が美味しいと思 いますよ!!」
「ちょっ?!おまえは俺たちを売るつもりか慎二?!」
「くっ、真桐・・・!!貴様極楽浄土にいけるとは思うな・・・!!」
「うるさいやい!!まだボクは人生をエンジョイしまくりたいんだい!!」

言い合う三人だったが、所詮はかごの中の鳥。あっという間に一人が奥の部屋に連れて行かれたのであった。

「う、うわぁぁ!!!放してくれぇぇ!!ボクは無罪だぁ!!冤罪だぞ?!控訴しちゃうぞ?! まだまだ遊びたい盛りなんだって!!あ、遊びたい盛りっていえばこの前新都でおいしいクレープ屋を 見つけてさ〜、これがうまいんだよ!なんていうの?もう激ウマ?ってかんじでさ〜♪ あ、クレープについてはボク結構口うるさいよ?近頃良く見かけるソーセージが入ってるやつとかサラダっぽいやつとか、 あとカロリーについて計算されたやつとかはクレープ歴5年のボクから言わせればまさに邪道! あの無駄に高いまでのカロリーと口にどろっとくるクリームがいいんだよ!! 全くわかんないよね〜世の中ってやつは?あ、割引券あるから今度行かな」

ばたん、と扉が閉まった。どうやら防音性らしく中からの音は一切しない。

「・・・慎二、おまえのことは忘れない・・・」
「真桐・・・発狂したか・・・」

それぞれ万感をこめて今、まさに亡き者にされているであろう親友に祈りを捧げる二人であった。

「まぁ慎二のことはおいといて、これ、抜け出せるか?」
「やってはいるが・・・なかなかにきつく縛ってあるな・・・」

互いになんとか抜け出そうとしていると再び地獄への扉が開け放たれた。

「さて真桐君は済みましたので、次は・・・」
「主よ、罪深き我らを許したまえ・・・」
「バゼット、カレン!!おまえら慎二をどうしたんだ?!」
「「・・・」」

無言で目をそらす自由人(フリーター)。そして祈りをささげるシスター(悪魔)

「な、なんてやつらだ・・・」

顔面蒼白になる士郎、そして一成。

「このご時世、職を選べるほどに私には技量がない。士郎君、一成君。諦めてください。」

と言い訳をするフリーターさん。

「ですが体に害をなすわけではないので。・・・体には、ですが。」

と慰めるように見せかけ更に恐怖の坩堝に落とす素敵な悪魔さん。

「・・・わかった。俺が先に行こう・・・」

親友を先に行かせるわけにもいかないからな、と心のなかでいいながら彼は挑むような目で 悪魔とフリーターを睨んだ。

「衛、衛宮・・・。馬鹿者!学友を贄にして生き延びるなど言語道断。俺が行こう!!」

涙ぐましく青春する男二人であった。

「結果的にはどちらも同じ運命を辿るわけですが」

そんな青春ドラマを素敵にぶち壊してくれる悪魔さん。

「では、お楽しみは後にとっておくということで」

といいながら無造作に将来有望、容姿端麗、そのうえ実直な柳桐一成を連れて行くのだった。

「く、衛宮・・!さらばだ!!極楽浄土にてまた会おう!!」
「い、一成!!!」

必死で手を伸ばそうとするが手も赤い布で覆われているので無様に頭から転ぶ士郎だった。





「ど、どうすればいいんだ・・・?!」

一人になって精神的にも辛くなってきたのか蒼白な顔が痛々しくなってきている士郎。

「ま、まぁよくよく考えてみれば服を着させられるだけだしな!!! なにもそんなに怯えることはないよな!!うん!まさにその通りだ!!」

自分を慰めるために、自分に活を入れるために、でかい声で独り言をする士郎。
傍から見れば怪しげな人であることは否めないが彼にはそんなことに気遣えるほどの精神的余裕は 残っていないのだから仕方ないといえば仕方ないのかもしれない。
だが彼の自身に対する慰めも、扉の開く無機質な音によってあっという間に意味を成さなくなってしまった。

「ひっ・・・!!」

言葉にならない悲鳴をあげながらも果敢に音源を見る勇気ある少年。
しかし相対するは今の彼では180度彼の性格を回転しない限り間違いなく敵わない人の道を究めたフリーターと悪魔。
勝てるはずは当然なく、

「カレンもバゼットも一応人の子だしな!!まさかそんな非人道的なことをするわけないよな!!な?な?!」
「「私たちに聞かれてもね・・・」」

とあっさり敗北。

「お、おまえらがやるんだろうが!!?」
「言われて見ればそうでしたね。でも大丈夫!士郎君ならきっと耐えられます!」
「これも神が貴方に与えた試練と思って諦めなさい。」

満面の笑みを浮かべる二人。
こういう場面じゃなかったらすごくいい笑顔なんだけどなぁ、と破綻させられた精神の片隅で ぼーっとそんなことを考えながら士郎は地獄への扉をくぐるのだった。





結婚式までもう間もないというのに、なぜか現れない男性陣。

「ったく・・・あいつら何やってんのよ?!もう式が始まるまであと30分しかないのよ?!」
「全くです。それにしても、これだけの量の食事を作るとは・・・大変だったことでしょう・・・ あぁ、早く食したいものです・・・」
「セ、セイバーさんまだ食べちゃダメですよ・・・?キャスターさんの式が終わるまでは待ちましょうね?」
「桜の言うとおりですセイバー。全く・・・貴方には英霊としての誇り、いえそれ以前に人間としての 最低限のマナーが備わっているかも疑わしいですね・・・。士郎の苦労も窺がえるというものです。」
「む、そんなことは言われなくてもわかっています!!全く・・・この私が式が始まる前から 食事を頂くとでも思っているのですか?!」
「「・・・」」

普段から食い意地の貼っている貴方を見ていればそうも思いますよ・・・と視線でセイバーに 物申す二人。見事な意思の疎通である。

「な、何ですかその目は?!確かに近頃は少々もの足りずに冷蔵庫の中身を失敬させてもらうこともあ りますが・・・私は公の場でそのようなことをするほど無作法ではありません!!」
「近頃冷蔵庫の中身が微妙に減ってきていると思ったらセイバーさんだったんですね・・・」
「え、い、いやそ、育ち盛りですので・・・」
「英霊である貴方に成長も何もないでしょうセイバー」
「私なんか食べたら食べた分だけ色々成長しちゃうのに・・・セイバーさんいいなぁ・・・」

言外に嫉妬と優越のこもった言葉をぼそっとつぶやく桜。

「桜・・・それは私に対するあてつけですか・・・?」

自分の胸と桜の胸を見比べて悲しげに問うセイバー。

「え、いやそんなことないですよ?!あっても重いだけですし・・・」

顔を赤くしながらあたふたと答える桜。

「・・・」

幾多の戦場を駆けながらも勝利を手にし続けた騎士王は無残に無様に敗北を喫したのだった。

「桜、あんたそれ嫌味以外のなんでもないって気づきなさい・・・。」

妹の間違いをきちんと正すあたり姉としても優秀なことが窺がえる凛であった。

「で、士郎たち以外にも来てないヤツが結構いるみたいだけど・・・」

と辺りを見回す凛。
魔術師や英霊が集まる式である以上、必然的に来る者も限られてくるがそれにしても少ない。
衛宮家の住人のほかにはアサシン以外見受けられないのである。

「まぁ他のサーヴァントはともかく・・・なんであの馬鹿が来てないのよ?!」

あの馬鹿とは、言わずもがなアーチャーのことである。
日時も場所もきちっと伝え、顔を合わせるたびに口煩く忘れないようにと伝えてたのに なんで来てないのよあの馬鹿は?!とセイバーに八つ当たりするがごとく愚痴る凛。
騒音に驚いたのか木々からカラスやらなんやらが色々と飛び立っていった。

そして

「なにかぎゃーぎゃーうるせぇと思ったら嬢ちゃんか。いったいどうしたんだ?」

なんか変なものも飛び起きてきた。

普段は戦闘用であろう蒼き服に身を包み、それに負けないだけの蒼き髪を無造作に後ろに掻き揚げながら あるがままを受け入れるだけの器のある英霊、ランサーがそこには立っていた。

「「「「・・・」」」」

沈黙する四人。

「ん?どうした?あぁ!この格好か?オレのマスターがそういうのにはうるさくてな。 わざわざこんなもん着させられたってワケだ。どうだ納得か?」

そう。いつもはカジュアルな服を好むランサーであったが、今日は意外にも非の付け所がない タキシードできていたのだった。

「・・・流石はアイルランドの大英雄というか・・・不気味なまでに似合うわね・・・」

一同の感想を言葉にして伝える凛。他の面々はまだ見惚れているようだ。

「こういう堅苦しいのは苦手なんだがな。肩がこってしょうがねぇぜ・・・」

まぁマスターの意向には逆らえないからな、と両手をあげて降参のポーズをとるなかなかに芸が細かい ランサーであった。

「お互い苦労するわね・・・ところでランサー。うちの馬鹿サーヴァントしらない?」
「アーチャーのことか?あぁ、そういやここで働かされてるってうちのマスターが笑ってたぜ? なんでも「借金の形にここで働かされているのだ、金遣いの荒いマスターを持つと苦労する・・・」 とかなんとかいってたらしいぞ?」

と、からからと笑っているランサー。
それに対してみるみる青ざめていく凛。

「ね、姉さん?いったい何やったんですか?」
「凛・・・貴方という人は・・・」
「アーチャー・・・敵ながら哀れな・・・」

呆れ顔の三人。今頃調理場で飯でも作らされてるんじゃねぇの?と爆笑するランサー。

「そ、そういえば・・・宝石代とかなんかで色々とイリヤに借りてたわね・・・。 借金の返済を早くしろとか言わなくなったから忘れたのかと思ってたけど・・・」

と思い出すや否やだーっと走り去っていく凛。
ちなみにこの後、ひよこ柄のエプロンをつけたアーチャー(連日連夜働かされたため瀕死) に泣きながら謝る凛であった。

アーチャー曰く「まさか英霊になってからも死に掛けるとは・・・。 人間だった頃ならそんな目に何度も遭ったが・・・」

と、この式が終焉を迎えた後にしみじみと話すのであった。




アーチャーを迎えに、もとい救出するべく走り去る凛。

「はぁ・・・アーチャーさん可哀想ですね・・・」
「全くです。サーヴァントを借金の形に取られるなどもってのほか。シロウにも気をつけてもらわねば。」
「セイバー、士郎の場合はあなたにかかる食費によって破産させられるであろうことは火を見るより明らかですが?」
「む・・・ライダー。あなたの本代や自転車の修理代なども相当のものだと思いますが?」
「私の場合はきちんと還元しています。あなたのようなニ○トと比較されても困ります。」
「!!!ひ、人が気にしていることをよくもぬけぬけと・・・!!!・・・わかりましたライダー。決着をつけましょう。」
「望むところです。この広い陣地ならば私に分があると知ってなお挑むその騎士道精神には敬意を持ちましょう。」
「甘いですねライダー。広さを活用できるのはあなただけではないということを教えてあげましょう!!」

前から貴方のことは気に食わなかったんですよとばかりに睨み合う二人。
何もかもを飲み尽くす激流のごとく気魄を解き放つライダー。
燃え盛る地獄の炎のごとく王気を解き放つセイバー。
そして、この人が持てる全ての闇を凝縮させたかのごとくの闇を身に纏い、殺気を解き放つ・・・桜。

「ライダー・・・?私がどういうことを一番嫌うか・・・あなたなら分かりますよね・・・? セイバーさん・・・?負け知らず、敗走知らずのままサーヴァントを続けたいなら・・・分かりますよね・・・?」

なにもかもを飲み込む貪欲な闇を背に禍々しいまでの殺気を見せる桜。

「「は、はい!!!」」

生前、幾多の戦場を駆け抜けた騎士王も、古代における最凶の怪物の代名詞といっても差し支えない女蛇も、 この人が持つ闇の面の体現そのものには勝ち目はなかったのであった。

「はい。分かってくださればいいんです♪」

返事を聞き、母性溢れるいつもの桜に戻ったのを見て、お互いの生存を確認して安堵のため息をつく英霊二人組であった。

「いやぁ嬢ちゃんなかなかに怒ると怖いねぇ・・・」

後ろのほうで観戦していたランサー。顔を引きつらせながらも声をかけられるあたり流石はアイルランドの大英雄である。

「いえ、私なんてまだまだですよ〜」

照れながらも謙遜する桜。それに対して、いえ、もう十分貴方は極めています・・・ それはそれはいろんな意味で・・・とでも言いたげに戦々恐々とする腰抜け英霊達。

「そういえば、姉さんも言ってましたけど先輩たち遅いですね・・・」

だがそんな二人に気づかずに、あるいは気づかない振りをしながら話題を変える桜。

「あぁ、そういやそうだな。ていってもうちのマスターが着付けをしてるらしいからな・・・ まぁ多少なりとも時間はかかるだろうよ・・・」

蒼い髪に負けないぐらいに顔を青ざめさせるランサー。

「?それってどういう意味ですか?」
「まぁ見れば分かる・・・お、噂をすればお出ましのようだな。」

ランサーの視線の先には彼のマスターであるバゼット、そして一時はともに行動をしていたカレンが、 嬉々とした表情で歩いてきた。

・・・なにやら若い男が三人はいそうな膨れた赤い布を引っさげて。

「これはこれは桜さん。お久しぶりです。」
「あ、お久しぶりです。カレンさんもこんにちは!」
「はい先輩。こんにちは。今日という日に先輩に出会えたことに、主よ感謝いたします。」

楽しげに会話する華のある三人。
もっとも中身は甘い匂いで相手を誘い込む食虫植物のようなタイプの女性ばかりであるが。

「バゼットさん、その布の中には何が包まってるんですか?なんだか、 男の子が三人は入れるぐらい大きいですけど?」
「はい。良くぞ聞いてくれました。お察しの通り中身は・・・」

さぁ御照覧あれ!とばかりに勢い良く布をひったくるバゼット。

転がる中身。

「「「・・・・・・」」」

沈黙するサーヴァント二名に桜。
ランサーは中身をある程度予想していたのか、三人ほどの衝撃を受けてはいなかったが、 それでも普段の彼からは想像できないほどに、青ざめていた。

そこには、

可愛らしいフリルの付いた、というかフリルで全て覆われているといっても過言ではないほどの 服を着せられ、頭にはなにやらどこぞのお嬢様がつけていそうな大層なリボンがあしらわれた、 可愛らしい男と・・・

全身黒タイツで、その上にある意味前衛的と言えなくもないアート(具体的に言うと、なぜか海産物が 多く貼り付けられてある背中に大海を表したかのごとく波の絵をあしらえた秀逸という 言葉では現せることの出来ない、というか、現したくない胸部) そして先ほどのお嬢様リボンに対抗したのか、頭には、見事な・・・タコがくっついていた。 また、可愛らしさを強調したかったのか珊瑚もあしらえてあるあたり職人芸のなせる業である。
ちなみに 妙に濡れていること、および海臭いことから海水をかけられたことは火を見るより明らかである。

そして、なにやら怪しげな呪詛のようなものを体中に描かれ、ほとんど裸体のままの状態に申し訳程 度にまかれた腰の布が初夏とはいえ寒々しい。また普段は燃えるように真っ赤な髪はなぜか黒色に染め られている。頭に一人だけなにも装飾をしないのも、不公平と思ったのか、ハチマキのようなものが巻 かれている男の子・・・

達が転がっていた。

「こ、これは・・・に、兄さん・・・?」
「シ、シロウ・・・なのですか?なんというか・・・いわゆる夏休みデビューというものですか・・・?」
「この方は確か士郎の友人の・・・一成でしたか?なにやら・・・いえ、士郎の友人に限ってそのよ うなことは・・・」
「・・・明日はわが身、か・・・難儀なマスターを持っちまったなぁ・・・」

とそれぞれがそれぞれの感想を述べる。

「やはり着付けというものは楽しいですね♪」
「全くだわ。今度は・・・」

満足げに微笑むバゼットに早くも次の獲物を求めて鷹の目のごとく、目を光らせるカレン。
その視線の先には、

「い、いやちょっと待ってくれよ?!オレはカジュアルなものが好みなんだよ?!ちょ、ちょっと待て バゼット!!それは名案だとばかりに手を鳴らすな!!もういやだ!!ぜってぇにいやだ!! あれだけは勘弁してくれ!!!」

なにかいやなことでもあったのか子犬のように怯えるランサー。

「仕方ない・・・わかりましたランサー。マスターとしてサーヴァントの意見を無碍にはできない。」
「怯える子犬のような貴方を弄ぶのは主が許可してくれるとは思いませんからね・・・」

と、反省の色を見せる二人。

「いやぁ話の分かる奴らでよかったぜ・・・」

安堵の色を見せるアイルランドの大英雄。
もっとも、マスターとシスターの言っていることと、浮かべている表情の違いはかなりの落差を持っていたが・・・

「ん・・・」

意識が回復したのか起き出した三人。

「あれ・・・?俺・・・なんでこんなとこに・・・?たしかバゼットたちに・・・ !!!」

記憶の糸を辿って最悪の悪夢を思い出した士郎。

「!!! 一成や慎二は?!あ・・・」

自分の周りにいることに気づき、お互いの生還を称え合うべく歓声をあげようとしたが、 友の変わり果てた姿に言葉を失う士郎。

「・・・む、おぉまだ現世か!!ハハ!よかったよかっ・・・」
「ん・・・お?・・・なんだ!夢か・・・へ?」

続々と起きだす友人達になんと声をかければいいのか悩む士郎。
トラウマとかになってたらどうしよう・・・など、要らぬ心配をしていたが

「「・・・ぶ、ブワッハハハハハハハハハハ!!!!」」

互いの容姿を見て爆笑する二人。

「ハハハハハハハハハハハ!!間桐、なんだその海の幸は!おまえのワカメに対するデコレーションの つもりか?ハハハハ!!」
「アハハハハハハハハハハ!!柳桐、いつから女の子になったんだ?全く衛宮の気を引きたいからって そんな格好しても馬鹿にしか見えないぞ?!アハハハハ!!」

お互いの格好に爆笑しあう二人。

「おまえら二人とも鏡見て来い・・・」

自分の格好に気づいてない哀れな友人達に適切な助言をする士郎。友人の鏡ともいえる行動だが

「え?・・・うわっボクなんかすげぇー塩臭いぞ?!あ、なんか頭から黒いのが?!なんか付いてるし ?!と、取れないぞ?!あ、なんか全身が引き締まってるし?!く、黒タイツ?! ・・・まぁこれはこれでありかな・・・」
「ん?・・・うわっ!!な、なんだこのキャスターさんが集めていそうな、やけにふりふりしている服 は?!な?!頭にもなにやら・・・?!なんだこのえらく凝った結び目は?!取ろうとすると余計に? ! ん?いや、意外とこれはこれで風情があって良きものかもな・・・」

結果、そっちの道を突っ走っていく二人であった・・・。

友人の暗黒面を見せ付けられ少々放心気味の士郎。
故に彼もまた自分の服装の特異性に気づいていなかった。

結果

「先輩・・・何があったんですか?!私でよかったら相談に乗りますよ?!」
「シロウ。事情を話したくないのなら話さなくてもいいです。ただ忘れないで欲しい。 この身は貴方の剣であり盾でもある。なにか困ったことがあるなら、相談に乗りましょう。」
「・・・なるほど。以前に本で読んだことがありましたが、これがいわゆる夏休みデビューというもの ですね・・・。士郎、なにがあったかは知りませんが、桜を裏切ることの無いようにお願いします。」

勝手に傷つきやすいお年頃ということで処理されたのであった。
少々疲れ気味(精神面でも肉体面でも)の士郎。結果

「まぁ別にいいけどさ・・・」

少々捨て鉢な態度になってしまった。

「良くはありません。」
「全くです。」

それに対して却下を下す元凶のフリーターとシスター。

「「その姿になった以上、もっと捨て鉢に、口調も乱暴によろしくお願いします。」」

見事に声が重なる二人。

「前も言ってたな・・・。つーかよ・・・このペイント消えるのか?」

一応合わせてあげる辺り人のよさが窺がえる士郎。

「「いえ、消えません」」

にっこりと微笑む二人。

「死ねよサドマゾ極悪コンビ。」
「「そう、それです!!」」

否定しない辺り自覚はあるのか、と投げやりな気持ちになりながらも思う士郎。
で、ふとあることに気づく。
本来いたならば、真っ先に自分達の容姿をからかうであろうあかいあくまこと遠坂凛がいないのである。

「そういやぁ遠坂がいないけどどこ行った?」
「「さぁ?」」
「使えねぇな・・・」
「まぁ、もうじき戻ってくることでしょう。それよりも式がそろそろ始まります。一応今回イリヤスフ ィールに雇われている身ですので、式の取り仕切りも勤めさせてもらいますので。」
「ふーん。で、おれらの格好は?」
「「そのままです」」
「・・・はぁ。」

分かりきっていた回答だが直接答えを貰うとそれはそれで物悲しくなった士郎。

「まぁ、それはいいとしてここで待ってればいいのか?」
「はい。青空の下で式を挙げたいとのことでしたから。」
「意外とあいつメルヘンチックな趣味してたんだな・・・」

蒼い空を仰ぐかのごとく見上げる士郎。
友人達がどこからか持ち出してきた鏡をみてうっとりしていることと、衛宮家の住民たちが あんたの友達なんだからなんとかしなさいよ・・・正義の味方でしょ?とばかりに向けてくる視線の痛 さと、自分の容姿を見て血沸き肉踊る、とばかりに爛々とした表情で自分を見てくるサドマゾコンビと、 坊主、耐えろ!その先に何が見えるのかを確かめて来いというかのように親指を立てる弓兵と、哀れ な・・・なんなら介錯してやろうか?なに礼は入らん、武士の情けというものだ、とばかりに木陰のし たから慈愛に満ちた殺気を放つ侍さえなければ良い一日なのになぁ・・・とどこまでも続く青空を見て 思った士郎であった。





「ふぅ、間に合ったわよアーチャー!良かったわね!!」
「少しも反省の色が無いところは君らしいといえば君らしいが・・・家計を預かるものとして 少しは自重して欲しいというのが本音だね・・・」

そうこうしているうちに、戻ってきた凛。
隣には英霊だから見た目が変化することなど有り得ないのになぜかやつれきったアーチャー。
で、戻ってきてみると、
おそらく士郎だった物と
おそらく慎二であった物と
おそらく柳桐だった物が
式のためか、列を揃えていた。

「「「あ、遠坂。」」」
「・・・プッ・・・アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!! なによその仮装大会は?!衛宮君、しばらく見ないうちに夏休みデビュー? 一歩間違えると捕まっちゃうわよ?
慎二、もと居た場所に帰りなさい。海が貴方を呼んでるわよ?あとその頭の上のタコ・・・ 恋人?お似合いね!!
柳桐君・・・オッケー。分かってるわ。私、そういうのにはわりと理解あるから大丈夫よ。 ただ今度学校で会うときは私のことを遠坂凛お嬢様とでも呼んでくれないとちょっと口が軽くなりそうね・・・」

悪魔のような笑みを浮かべながら脅す凛。
その横でかつての自分を同情の目で見るアーチャー。

「うるせぇな・・・どうせヤンキーですよ・・・」

捨て鉢な口調で返す士郎。

「口調まで変えて・・・なに似合わないことしてるのよ?」
「そういう指令がサドマゾコンビから下ってっから仕方ねぇだろ・・・。てか遅すぎ。 もう始まるらしいから、早く並べ。お前のほかにはギルガメッシュぐらいだぞ・・・」
「はいはい。じゃ、アーチャー、並ぶわよ?」
「君の辞書には反省という言葉が入っていないのか・・・?」
「む、悪かったって言ってるじゃない!!」
「まぁ、苦労するのは大抵の場合私であって私でないから良いのだがね・・・」
「なら良いじゃない!!ほら!もう始まっちゃうみたいよ?並ぶわよ?」
「うむ。了解した。」

なんだかんだで息の合った二人であった。

「本日は晴天に恵まれ、絶好の結婚式日和です。司会は私、バゼットが勤めさせていただきます。」

雇い主から簡単な挨拶で良いと言われたのか、かなり短い挨拶を終えたバゼット。
生来こういう場での挨拶に慣れていないのか、少しばかり、声が強張っているのはご愛嬌であろう。

「では、長らくお待たせいたしました。新郎新婦のご登場です!!」

拍手とともに城門が重々しく、厳かに開け放たれた。
流れ来る初夏の風。どこか懐かしい匂いに目を細める士郎達。
彼らの視線の先には、いた。

ありふれた言葉では形容できないようなその美しさこそが一つの極致。
遥か遠き昔、神代の頃、「裏切りの姫君」と、蛇蝎のごとく忌み嫌われていた彼女は
この現代において、何者にも勝る、いやそもそも勝敗などで形容することこそが愚かだとでも言うかの ような、可憐な姫君だった。
整った顔立ちに、この世の春、とでも言いたげな満面の笑顔がただただ美しい。

幸福の姫君と腕を組む彼は、彼のことを知らない者が見れば無表情だ。
けれどここに居る者は皆彼を良く知っている。
だからこそ驚愕し、より一層に拍手を強めた。
憮然とした表情からこぼれている彼の穏やかな目つきは、長く付き合いを重ねた者たちも初めて見るも のだった。

故に、彼女は魔術師ではなく、魔法使い。
誰もが成し得ない事。現代の人々では実現不可能な事象を血のにじむ努力と己が才によって 現す者を人は魔法使いと呼ぶ。
ならば誰もが成すことの出来ない、彼の笑顔を創り出した幸福の姫君を、魔術師などという狭い括りで 当てはめようとすることなど、誰が出来よう。

「皆、今日来てくれたことに、心から感謝するわ!!」

日常という幸福を望み、非日常に殺められた彼女。
だからこそ彼女は今ここにある日常を、こよなく愛する。
だからこそ彼女は、その日常を鮮やかに彩ってくれる、彼女の仲間達に対して、 万感の思いをこめ精一杯の誠意をこめてお礼を言った。

「うむ・・・家内の言うとおりだ。皆今日は来ていただき感謝する。」

無骨な言葉。
憮然とした表情。
もとより、彼に感情らしいものなどは付いていない。
そうやって、彼は彼の人生を生きてきた。
否、そうやって自分の感情を失くす事でしか生きてこれなかった。
けれど無骨な言葉に、彼なりの誠意と幸福が入り混じっているのを彼らは確かに感じた。

言の葉に乗せて思いを伝えなければいけない時がある。
けれど、今この瞬間に言葉で返すことこそが無作法であり、葛木もまたそれを望んでなどいないことを 彼らは分かっていた。
だから笑顔で返した。

そしてその笑顔こそが夫妻にとっての最高の贈り物。

式は穏やかに進んだ。





なんだかんだといろいろあった結婚式だがその後は新郎新婦の穏やかな雰囲気に包まれ、 和やかに流れていった。

そのときが来るまでは。

「では、新婦によるブーケの投げ渡しです。」

バゼットの言葉に穏やかな雰囲気は、一瞬にして崩れ去った。
「ブーケですか・・・。シロウ、この剣に誓い、貴方にブーケを土産に勝利をもぎ取って参ります。」
「ん?おぉ!!ホントか?是が非でも取ってきてくれ!!セイバーなら俺も安心だしな。」
「っ!!・・・行ってきます!!」

顔を赤くしながら甲冑を身に付け、出陣するセイバー。
俺、なんかへんなこと言ってたか?と首をかしげるシロウ。

「セイバーには優しいのね、衛宮君?」

いきなり後ろから現れた笑顔が素敵な凛。だが目が笑っていない上にこめかみが痙攣を起こしているせいか、 地獄から這い上がってきた悪魔にしかみえないのであった。

「え、なんだ?!なんで怒ってるんだ?!」
「自分の胸に手を当ててよく考えてなさい、この雑朴念仁!! なによ・・・私だってブーケとるつもりだったのに・・・」
「あ、なんだそういうことか・・・ うん遠坂にとって貰ってもすごい嬉しいぞ。」
「!!こ、このあんぽんたん!!何考えてるのよ全く?!」
「え、だって遠坂も取ってきてくれるんだろう?なら嬉しいに決まってるじゃないか?」
「・・・」

顔を真っ赤にして口をパクパクとする凛。

「ま、まぁいいわ・・・じゃあ私が取ってくるからちゃんと受け取りなさいよ!!」
「おう。もちろんだ。」
「じゃ、じゃあ行ってくるからね!!」
「おう。頼んだぞ!!」

顔が赤くなっている凛にたいして、風邪かな?と内心、心配しながら見送る士郎であった。

「せ、先輩!!わ、私が取ってきたら先輩受け取ってくれますか?」

姉である凛の話が終わるまで、遠目で機会を窺がっていたのか凛が走り去った後に 待ってましたとばかりに躍り出てきた桜。

「当たり前じゃないか。桜なら喜んで受け取るよ!」
「っ・・・あ、ありがとうございます!!じゃあ行ってきます!!」
「行ってらっしゃ〜い。」

走り抜ける桜に、ライダー。

「衛宮・・・相変わらずのもてっぷりだなぁ」
「全くだ。衛宮、選ぶなら一人にしろ。」

横で聞いていた親友たちが己の罪の分かっていない士郎に対して、言及するのであった。

その奥のほうでは、

「ではランサー。取ってきてください。マスターとしての命令です。」
「ったくよ・・・相変わらずの乙女チックなご趣味だこと・・・」
「っ!!!べ、別にそういう意味では有りません!!ただ玄関などに飾るにはちょうどいい花なので、 取ってきてもらいたいだけです!!!」
「はいはい。玄関には花瓶もなにも置いてなかったけどなぁ?」
「い、いいから取ってきなさい!!手に入れたら、ちゃんと私によこすんですよ? 他の子にあげたりしちゃいけませんからね!!」
「・・・(素直に欲しいから取ってきてくれって言えばもっと可愛げもあるんだがなぁ・・・)」

マスターとサーヴァントの口論、とは言いがたい微笑ましいけんかが繰り広げられていた。

またその横では、

「では、ギルガメッシュ。ブーケを手に入れてくださいね。」

遅れてやってきた、ギルガメッシュに無言でプレッシャーをかけていたカレンだったが、 これがラストチャンスよ・・・取れなかったら・・・とでも言うかのように絶対零度の笑顔を 見せたのであった。

「は、はい!!わかりました!!でもボク今子供形態だからなにも出来ませんよ?」
「大丈夫です。そのためにわざわざ倫教からこの薬を調達してきましたから・・・」

にやり、と擬音が発生するような恐ろしげな笑顔を見せるカレン。

「え、それなんです?!ちょっ!!変な液体が沸騰してるし、しかもゲル状?!なんか死体の腐った匂 いがしますし?! ちょ、ちょっとぼくには飲めないかなぁ・・・」
「そうですね。あなたはまだ子供ですからね。だから・・・」

ギルガメッシュを光速とでもいえる速さで赤い布で押さえつけるカレン。

「大人である私が飲ませて上げましょう・・・」
「ちょっ待っ、冷静に、んムゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」

無理やり口をこじ開けられ、謎の液体を飲まされるギルガメッシュ。

「あ、あガァァァアァァァァァ!!!!」

痙攣を起こしながらのた打ち回るギルガメッシュ。

「おかしいです・・・飲んですぐ効く即効性のはずでしたが・・・。あ、これ食後にお召し上がりくだ さいって書いてありますね・・・原因はこれですか・・・」

食後に飲んだか飲まないかでここまでの違いは出ないでしょ!!!!とのた打ち回りながら、 心の中で叫ぶギルガメッシュだった。

「仕方ありません。お子様サーヴァントが使えないので自ら出陣するしかありませんね・・・」
一つの悲劇がリアルタイムで起こっていた。

で、この結婚式の立役者とも言えるイリヤスフィール嬢はというと、

「じゃあバーサーカー。頼むわ。それに貴方もね・・・」

城内部でなにやら怪しげな会議真っ最中であった。
イリヤ正面には、彼女のサーヴァント、バーサーカー。
そしてもう一人の彼女の協力者は影から、承知したとばかりに閉じていた目を かっ、と見開きうなずいた。
ベルレフォーンを相殺するべく己が剣の真名を解放させるセイバー。

「うわぁぁぁぁ!!城が崩れるって!!」

その横で木にしがみついてなんとかその場にとどまる士郎。

「全くだぜ。ここは一つ、俺がブーケを取って場を収めるしかねぇな!!」

二人が互いの必殺の技を出し合っている間に、ブーケを取るべく跳躍しようとするランサー。
だが、

「甘いな。そう簡単に、事は運べるものではないぞ」

という言葉とともに繰り出される矢。
それに対して矢避けの加護でどうにか避けるランサー。
ランサーは矢が繰り出された先を捉える。
城の頂から自分を見下ろしている、アーチャーを。

「てんめぇアーチャー!!邪魔すんじゃねぇ!!」
「私としても邪魔などしたくないのだがね。 これもサーヴァントとしての役目。仕方あるまい」

かなりの距離があるため互いに怒鳴りあう二人。

「良くやったわアーチャー!!ついでにそのブーケを取って私によこしなさい!!」

英霊同士の凄まじい戦いについていけず、物影に潜んでいた凛だが、ここが勝機とみたのか アーチャーに命令を下した。

が、

「凛。それは出来ない相談だ。」

あっさり却下された。

「何いってるのよ?!あんたは私のサーヴァントなんだから私の言うこと聞きなさい!! この天邪鬼!!」
「君にだけは言われたくないのだが・・・。まぁ詳しい事情はこの城の主に聞きたまえ。」
「はぁ?何を・・・」

言ってるのよ、と繋げようとした凛だったが、午前のことを思い出しあっ、と口をあける。
そう。
今日は借金の形にアーチャーのマスターとしての権利をイリヤに貸していたのをすっかり忘れていたのだ。
「ま、不味った・・・」
「うむ。そういうわけだ。つまり私が仮にブーケを取ったとしても、君ではなく、イリヤに 渡すとういうことになる。」
「まぁそう言う訳ね。というわけで凛。恨むなら自分の浪費癖を恨んでね〜♪」

アーチャーの横からひょいと顔を出すイリヤ。

「むぅ〜〜!!!もう良いわよ!!なら実力行使で行くのみよ!!」

そういいながら、身体能力を向上させるべく自分の体に魔術をかけ、一気に跳躍しようとするが、

「俺の存在を忘れるなってーの!!」

進路を阻むべく、ゲイボルクで威嚇するランサー。
ちなみに後ろでは日ごろの鬱憤を晴らすかのように、剣を交わらすセイバーとライダー。
当初の目的を忘れて戦いに熱中する二人は周りの物をどんどん破壊しているため、
士郎が止めようとするがその度に、邪魔だ!!とばかりに吹っ飛ばされるのであった。

「・・・皆どんどん当初の目的から遠ざかってない?」
「否定はできねぇな・・・」

こいつらは・・・とばかりにため息をつく二人。
だがそれもほんの数瞬。

「けどまぁ・・・熱中してるってことはそれだけチャンスが広がるってワケで・・・」
「違いねぇな・・・」

互いに距離を置き、一瞬視線が交差した後に、一気に跳躍。
が、やはり英霊であるランサーに当然ながら分があった。

「悪いな嬢ちゃん。貰ったぜ!!」

ブーケまであとほんの少し。
しかし、そう上手く行くわけもなく、ここでもやはり邪魔が入った。
迫り来る赤い布。
遥か遠き地上からその赤い布を操る術者は、さぁ墜ちなさい・・・とばかりに邪悪な笑みをこぼしている。

「くっ!!またかよ〜!!!!」

足に絡んだ赤い布によって跳躍力のなくなったランサー。
結果、

「おわあぁぁぁああぁぁ!!!!」

重力という逃れようの無い力によって頭から地上に落ちていった。
そしてあっという間に、母なる大地に到着。
頭からめり込んだその姿に、失笑をぬぐい得ない、とばかりに口元がゆるくなるシスター。
己のサーヴァントの失態に、こめかみを引くつかせるバゼット。
そんな彼女たちを尻目にブーケへの距離をどんどん縮めていく凛。

「もらったぁぁぁ!!!」

が、ここ一番でポカをするのが遠坂家の呪い。

「凛。私という存在を忘れたか?」

眼前に迫るアーチャー。弓を使えば流石に凛でも命が危ないと思ったのか 直接落とすことにしたらしいアーチャー。

「へ?」

あっけに取られる凛。

「これも我が家の家計の為。恨むなよ凛。」

その言葉とともに凛を一気に叩き落とすアーチャー。

「きゃあぁぁぁぁ!!!?」

ランサーと同じように頭から落ちる凛。
そしてやはり頭から大地にめり込む凛。
自身の肉体に対する強化の魔術が効いたのか死んではいない様だが、どう見ても戦線復帰は不可能である。

「あれ、どう見ても死んでるよな・・・?」
「うむ・・・仏罰が下ったか・・・」

端っこのほうで木陰にかくれて観戦をしている一成と慎二。

「いくら遠坂といってもあれではあまりに不便。救出しに行くぞ、間桐。」
「い、嫌だよ?!進んで死地になんかいくもんか!!!」
「む、ならば俺ひとりでも・・・」
「ま、待ってくれ!!一人にしないでくれよ〜」
「ええい、うっとうしい!!その海水の染み込んだ体で抱きつくな!!」
「じゃ、じゃあここで一緒に居てくれよ〜。一人になったら誰かに殺されちゃうよ〜!!」

などと、遠坂を助けるか助けないかで揉め合っている二人。
だが彼らが揉め合っているうちに桜が凛を引き抜いたのであった。

「姉さん?大丈夫ですか?」
「こ、これが大丈夫に見えるなら一回眼科に行ったほうがいいわよ・・・」
「あはは。そうですよね。で、どうします?アーチャーさんが邪魔で私たちじゃ取れませんよ?」
「決まってるわよ。」

怒りに目の据わった顔の凛。だがどんなときも優雅であれ、が遠坂家の家訓。
如何に怒りで頭が沸騰しようと、彼女は常に冷静・・・

「全力でジャンプしてあの馬鹿をぶっ潰す!!!」

なわけは無かった。

「ね、姉さん・・・それは無理があるんじゃ・・・?」

姉をたしなめる妹。
良く出来た姉妹である。
凛を嗜める桜だが凛のやろうとしていることはそれほど突飛なことでもない。
なぜならブーケの行く手を阻む赤き外套に身を包んだ弓兵は、凛を叩き落す際に自らも 落下したために大した妨害行動が取れないのである。
無様に墜ちていったランサーや凛と違い、アーチャーは華麗な着地に成功したのは 特筆するべき事項でもないだろう。
と言う訳で再び天にめがけて跳躍を果たそうとする凛。
だが二度あることは三度あるとはよく言ったもの。
再び大いなる障壁が凛の行く手を阻んだ。

鍛え上げられた鋼のような漆黒の肉体。
理性の灯火の見られぬ虚ろな眼差し。
手にした大剣は眼前の敵、もしくはマスターの命により抹殺すべき対象の命の灯火を 容易く消せる事を想像するのはそう難しいことではないだろう。

眼前に見える障壁の名はバーサーカー。
イリヤのサーヴァントである。

「■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!」

雄叫びと呼ぶに相応しいほどの咆哮を上げ、眼前の非力な虫けらを 踏み潰すかのように猛突進してくるバーサーカー。

「「き、きゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」

可愛らしい悲鳴とともに全力疾走で逃げ纏う姉妹。
逃げる先には慎二と一成。

「「おわぁぁぁぁ!!!」」

向こう岸の火事と、傍観を決め込んでいた二人だがここに来て自らの命が危うくなってきたことに気づ く哀れな海男と女男。

「ば、馬鹿!!こっち来るな!!桜、兄の言うことが聞けないのか?!」
「兄なら兄らしく可愛らしい妹のためにその命を散らしてください〜!!」
「と、遠坂!!あれは元はといえば貴様の日頃の行いの悪さが祟っているものであろう!! ならば貴様が潔く食われて来い!!なに、心配するな。葬式なら俺の専門といっても差し支えない。 安心して逝って来い!!」
「じょ、冗談!!生徒会長として、守るべき生徒が窮地に立たされているんだから その身を挺して救いなさいよ!!」

などと、どちらかの命を犠牲に生き延びようとする浅ましき精神。
人の世とはかくも無残なものである。

「よーしバーサーカー。殺っちゃえ〜!!」
「「「「当て字が違うでしょ?!!」」」」

こうして続々とブーケのことを忘れてそれぞれの戦地で花を散らせていく若者たち。
この情景を写真や動画として残せば、戦争というものが如何に残酷で無慈悲で無意味なものだかが 良く分かることであろう。
だが、戦争であれ、何であれ、勝負事というものは冷静かつ冷徹、更に勝負勘冴え渡る者が 勝利するもの。
そして、この戦場には一人だけ、その条件に当てはまる人
――と言えるかどうかは分からないが、とにかく居た。

「先輩方もサーヴァントの方々もそれぞれの戦いに熱中してますね。 これでは埒が明きません。不本意ですが・・・私がブーケを取らしていただくと しましょう。」

全くもってして不本意には見えない邪悪な笑顔を浮かべるシスター、カレン。
決意表明と同時に唯一の武器らしい武器である赤き布を天高く放った。
それはおのおのの戦いに明け暮れていた戦士達の戦いの終わりを告げるゴングの響きも 同時に告げてくれたのであった。

ブーケ争奪戦、勝者  カレン

「もとよりこの身は神に捧げた身。ブーケなど貰っても仕方ありませんが、 花を愛でるのは淑女の嗜み。貰った以上は教会に飾りましょう・・・」

この後、だったらよこしなさいよ!!とばかりに再び暴動が起こり、 第二次ブーケ争奪戦が展開されたのは想像に難くないものである。

ブーケは結果的にカレンが受け取ることで収拾がついた結婚式。





主だった行事も終わり、残すところはアーチャーの尊い犠牲によって生み出された料理、 イリヤ自慢の酒蔵特製のアルコールを見えてきた月を肴に食し、和気あいあいと話に華を咲かせるのみ である。

「セイバー落ち着け!!御飯は逃げないから!!」
「わはっへいまふ!!わはひはほんはにいひひはなふみえまふか?!」
「…わかった。食事に集中してください…」

「ライダー、このケーキ凄く美味しいよ!!ライダーも食べる?」
「いえ。ところで桜。先日体重計を見て溜息をついていたのは私の見間違えでしたか?」
「……」
「い、いえ食べるなと言っているわけではなくてですね!!だ、大丈夫です!! こういった場にそういう遠慮は無粋ですからね。思う存分に食べてください!!」
「……」
「ああっ!!桜、落ち込まないでください!!大丈夫です! 向こうではセイバーも山のように食べていますから!!」
「セイバーさんは英霊だから太らないしね…」
「さ、桜はそんなに太っていませんよ!!」
「付け足しみたいに言われても余計に惨めになるよ、ライダー…」

「ほら、アーチャー!!機嫌直してよ?悪かったとは思ってるから!! あ、このケーキ凄く美味しいわよ?流石ね!!」
「……それはリズが作ったものだ。私ではない。」
「へ? あ、でもこのロブスターの飾りつけとかすごく芸術的だと思うわよ!!」
「……それは確かに私が作ったものだがイリヤが転んでぶつかって形の崩れた失敗作だ……」
「…ま、まぁそういう時もあるわよ!!」
「ああ。そんな時が君のサーヴァントになってから非常に多くなったよ…」

「全く…あれだけブーケを取ってこいと言ったのになんですか?あの様は?」
「だから悪かったって言ってるじゃねぇかよ… ほら、こういう明るい場なんだからそのことは  忘れてパーッと楽しく過ごそうぜ!!」
「そうやって誤魔化そうとしても無駄です!! 大体ですね、あなたは普段からいい加減すぎるんです!! 先週の土曜もカ○リーメイトのチョコレート味を頼んだのにチーズ味を買ってくるし、しかもお釣りを誤魔化すとは… 1万円を渡して返ってきたのは26円とは何事ですか?!7852円(税込)のお釣りはどこにいったんですか?!」
「細かいんだよ!!大体もう返せねえよ!!その金で買い食いしちまったからな。」
「お小遣いはきちんとあげてるでしょう!!限られた資金の中で生活していくのが生活の知恵というものですよ!!」
「月2500円じゃ毎日缶コーヒー飲むだけでなくなるっつーの!!」
「何を言うのです。私が子供のころなどお小遣いすら渡されませんでしたよ?それを思い返せばあるだけましと思えるものでしょう!!」
「おれはガキじゃねぇっての!!じゃあ小遣いは上げなくていいからバイトの許可をくれ。」
「いけません!!あなたのような職歴のないものが社会に出て働くなど言語道断!! バイトを始めたらそのお金で見境なく女性と遊ぶつもりなのでしょう?却下です却下!!」
「おいおい俺がそんなことする優男に見えるかバゼット?」
「はい。」
「……」

「あらあら…。成長薬を、と頼んだはずなのですが何の手違いかカエルに変身する薬が発注されていたようですね…。」
「ゲロゲロッゲ〜ロゲロ!!!」
「狙ってやったでしょうマスター!!ですか…。何を言うのです。何処に自分のサーヴァントをカエルにする 非情なマスターがいますか。本当に間違えたんですよ?」
「ゲッロゲロ〜!!」
「嘘つけこのドМ!! ……。どうやら調教の必要があるようですね? カエルの解剖は小学校の時以来です…。その時は腸の構造を調べるのに失敗してそれはそれは無残なことになりましたが… まぁ関係のないことでしたね。」
「ゲ、ゲローーーーーーー!!!」

「で、いつまで俺たちはこの恰好でいなければいけないのかな?イリヤさん。」
「そうだそうだ!!海水が乾いてきて、ボクの体は塩だらけなんだぞ?!」
「あら?イッセイもシンジもその恰好とってもお似合いよ?」
「いや似合う似合わない以前に人としての尊厳が失われていってる気がしてなりませんので出来たら 来たときの服を返してもらえるとありがたいのですが…」
「うん。僕も早くいつものセンスある普段着に戻りたいよ!!!つーかこの黒タイツ締め付けがヤバいんだって!! 早く返してくれよ〜!」
「え?捨てたわよ?」
「「な…」」
「だってそっちの方が似合ってるじゃない。」
「お、おまえこのチビ!!人のセンス溢れる服をなんだと思ってるんだ?! あれカンボジアから取り寄せた高級品なんだぞ?!」
「カ、カンボジアとはまたマイナーなところから購入して来たな間桐…。 その服のセンスのなさも納得がいったというものだ。」
「……後で覚えてろよ。とにかく!!ボクの服を返せ!!このバカチビ!!」
「ま、間桐やめろ!!」
「なんだよ?!ボクは今このバカチビに教育的指導を施してやってん…」
「■■■■■■■■■■■■■■!!!」
「「だーっ!!!」」
「私のことを二度もチビと言ったわね。惨刑に処すわ。ここで死になさい。バカワカメ。」
「ほ、ホントのことを言っただけなのに〜!!」
「な、何故俺まで追いかけられねばならん?!」
「ん〜。ついでに?」
「「な、何故疑問形?!」」

などなど悲喜交々に続いていく結婚式。
この後、アルコールを交えた団欒があり、酔ったキャスターが魔術を炸裂させ、 それに対して同じく酒に呑まれたライダーとセイバーが宝具を炸裂させ、 止めようとしたが止められずこれは本気を出すしかないとばかりに桜が黒化し、 妹の活躍(の名を借りた殺戮)に負けてなるものか、とばかりにガンドを炸裂させる凛、 城主として止めねば、と言うもっともらしい理由の下、イリヤもといバーサーカーが参戦し、 あらあら大変ですね……ところで食収めにカエルのムニエルはいかがですか? とものの見事に腸を裂かれたカエルを食卓に載せるカレンに、 現実逃避をすべく、これうめぇよ!!とカエルを男三人が食し、 でろんでろんに酔っぱらったバゼットに肩を貸して満更でもない顔をするランサーに 我関せずとばかりに月を肴に酒を楽しむ葛木。

まぁなんだかんだといろいろあったが夜中まで続いた宴に、疲れた出席者はアルコール臭漂う森にて 爆睡をするのであった。

そしてこういった後片付けに駆り出されるのはその場の雰囲気についていけなかった者、 と相場が決まっており、必然的にバルコニーにて一人心地に酒を楽しんでいたアーチャー、 木の上から騒ぐ出席者を肴に酒を飲むアサシン。

この二名が必然的に後片付けをする者になったのであった。

「お互いマスターのことで苦労するな。弓兵…」
「全くだ…。あれほど言ったのに反省のかけらも見当たらん。まぁ凛らしいといえば凛らしいが。」
「はは。なんだかんだと貴様はマスターを至上とするだけあるな。」
「まさか。借金の形に己のサーヴァントを召使いとして働きに行かせるマスターに忠誠もなにもあったものか。 それに忠誠心で言えば君には負けるよ。主のために門番として片時も山門を離れない君にはね。」
「一つ訂正しておくとあれは無理やりだ。」

互いの境遇の悪さに、両者とも可笑しそうに笑いあう。

「さて、やはりサーヴァントとしてマスターの尻拭いをせねばなるまい。遺憾ではあるがな…」

ひとしきり笑いあった後にアーチャーは少々疲れた表情をしながらも言った。
「はは。やはり貴様は真面目だな。まぁ少々私たちも楽しもうではないか。」
「楽しむとは何をだ?」
「宴で楽しむものといったらあれしかあるまい?」

そういいながら日本酒を指さすアサシン。

「ご同伴に預かりたいところだが断る。後片付けも一応仕事に入ってるのでな。」
「まぁそういう堅い事は言うな。なに夜はまだまだ長い。 月を肴に己がマスターの愚痴で心を癒そうでないか。」
「ふむ…」

ほんの数瞬の後地面に座るアーチャー。

「中々に付き合いが良いではないか。」
「なに。私にもたまには休暇があってもよいのではないかと思ってね。 凛風にいうと「心の贅肉」なのだろうがな」
「弓兵。お前もなかなかに難儀をしているようだな…」
「全くだ。」

そんな会話をしながら月を肴に酒を飲み合う二人。

月は満月。

風は初夏の匂い。

見上げた夜空には満天の星。

地上には守るべき主。

夜でも暖かになってきた外気が二人の話に花を添える。

今宵一番の被害者たちは、同時に今宵の宴を最も楽しめたのかもしれない。


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